⑥ 全損の場合は原則30日、新車買い換えなどは納車日まで

・事故にて時価全損となった場合ですが、レンタカーの貸し出しの責任は30日が上限値との判例があります。以前は「14日まで認める」との判例が多かったのですが、近年の判例は「30日まで」が主流となっていますので、1つの目安として30日が上限と考えれば間違いはありません。

なお、この期間には事故日より工場に入庫し、全損なのか一部損なのか判断をする為のアジャスターの介入、見積もり作成までの期間等を含みます。更に、被害者が車両を買い替える行動に出るまで期間を含みます。

最近では、正当な理由があれば速やかに買い換え発注を行った場合等は納車日まで認められたり、GWを挟んで修理工場が休みで見積もりができない等)長期間の支払いを認める判例が多いです。

なお、特殊車両の場合…例えば大型特殊冷凍装置を搭載した保冷用のトラックを準備するのに、30日ではとても間に合わない等の正当な理由が認められる場合、新車発注から 納車 まで2か月かかったとして、代車料が60日まで認められた判例があります

・自動車保険の実務でいえば、3週間超えなければ普通文句は言われません(勿 論事故状況や納車状況によります)。お盆や年末年始を挟むなど、相応の事情があれば認められる日数は当然延びて参ります。あくまでも「民事」の話ですので、レンタカー代を支払うことで事故解決が進展する状況だと保険会社が判断すれば、30日を超えて支払われるケースもございます。なお弊店での経験上ですが、最高で相手保険会社が51日認めた事例がございます。

・弁護士を入れると保険会社はコロリと態度が変わりますので、納得行かない場合には弁護士委任をすることを強くおすすめします。

ex.1)35日支払うならば、人身事故の自賠責の慰謝料だけで良く「上乗せ慰謝料」は請求しない

ex.2)レンタカー代を40日出すならば、過失割合を譲歩してもよい

本件事故と相当因果のある代車費用は、通常事故後1か月分に限って認めるのが相当であるというべきところ、本件において事故後1か月分を超えて認めるべき特段の事情は存しない【事件番号:平8(ワ)第8179号 大阪地裁 判決日:平成12.4.25】【※2:事件番号平元(ワ)第1290号 神戸地裁 判決日:平成3.6.12】


⑦ 一部損の場合は、修理相当期間まで

・一部損害の場合、レンタカーは何日まで認可されるか…これはケースバイケースです。結論から申し上げますと、「その修理に必要とされる妥当な日数」までが認められます。破損状況が著しく、修理が難解になれば成る程レンタカーの日数も長く認められますが、簡易な損傷で数日で修理が完了した場合には、レンタカーを借りても数日しか認められません。

しかしながら正当な理由があれば台風による損害で地域の車屋さんに修理依頼が殺到し、同時期に置きた交通事故の修理にかかれずに日数が経過したなど)長期間の支払いを認めるケースが多いです。また事故の相手方が不誠実で、保険を使用せずいつまでも修理査定に来ずに修理にかかれない…などの期間等の場合にも、認められる事があります。 また、お盆休みや年末年始を挟む修理になると代車料の日数が長くなる傾向がありますが、「修理相当期間」ですので影響はありません。

Q:保険会社の対物担当者から、「一部損の場合、レンタカー代は2週間までしか認められません」と言われましたがどう対応すればよいでしょうか?

A:何の根拠もありません。はっきりと「修理相当期間までの期間」をご請求ください。保険会社の担当者にもよりますが、損害率を抑えるため今でも素人相手ならよく使われるブラフで す。「一部損の場合、レンタカー代は(1つの目処として)2週間まで(保険会社内で勝手に決めているから)認められません」と解釈なさって下さい。但し、 修理工場から修理が完了したという連絡は相手保険会社にも必ず通知が行くことになります。後々揉める事になりますので、修理相当期間を超えてダラダラと借りないようにして下さい。

Q2:保険会社の担当者から「過失があるからレンタカー代の支払いは出来ない」と言われました。どう対応すればよいでしょうか?

A:これもよくあるブラフです。反論の根拠としては、東京地裁平成19年11月29日判決※3から、過失80:20の交通事故で、過失20%側に対し、レンタカー代の20%を支払うように命じた判例があります。この過失割合が高い方への代車料の支払い判決があってからか、平成21年前後を境として保険会社も「過失割合についての支払い拒否」についてはあまり言って来なくなりました。交渉相手が素人の場合には今でもよく使われますので注意が必要です。交通事故でレンタカーを借りる正当な事由がある場合には、過失割合の大小に関わらず代車料は支払われますので堂々と請求して下さい。勿論、自分が過失100の場合には1円も請求できませんのでご了承ください。【※3 事件番号平18(ワ)第6198号:平17(ワ)第24347号:平16(ワ)第3684号】


⑧ 請求に妥当な金額は?

・上記段落の結果を踏まえてですが、国産の高級車の場合は15,000円前後/日の金額が裁判で認められるケースが多いです。判例により2万円/dayを超えて認定されるケースもありますがごく稀ですので、一般的な乗用車の場合には外車・国産問わず、レンタカー代を請求できる額は最高15,000/日程度とお考えください。勿論、コンパクトクラスの普通乗用を借りたのに15,000 円/dayを請求できるなどはお考えなき様、宜しくお願いします。【事件番号:平成16(ワ)第3684号、平17(ワ)第24347号、平18(ワ)第 6198号 東京地裁 判決日:平成19.11.29】

 2023/10/10追記:弁護士経由で請求する場合には、同一クラスの車種で、該当地域のレンタカー料金の平均値ぐらいは大丈夫です。あまりにかけ離れる場合は否定されますが、裁判が終盤に差し掛かると大体の場合には裁判官より和解案が出てきますので、そのあたりを参考にすれば良いと思います。

上記の認定金額は「訴訟」での判例に基づく料金です。1日あたり保険会社が文句を言わず支払いするであろうという生々しい額でいえば、ミニバン10,000円前後、普通車で4,500円前後 軽自動車で3,500円程度ではないでしょうか。 ※あくまでも金額は個人的な経験則からの目安です。地方か都市部か、または物価の上下や保険会社で差異がありますので、参考程度に留め置き下さい。

 ・ちなみに保険会社は大手レンタカー会社と協定を結んでいます。加害事故等の際で相手方等から「代車を用意してください」との要求があった場合、優先的に協定先レンタカー会社のレンタルの依頼を行う代わり、「相場より安価にて配車してもらう」という流れになっています。また保険会社にもよりますが、協定先の大手レンタカー会社にレンタカーの紹介をする…(諸事情により略)…従いまして、協定を行っている(大手)レンタカー会社に借りてもらおうというバイアスが働きます。

 「当方でもレンタカーはご紹介できますよ」と、協定を行っていない一般のレンタカー会社を避けようとするのはこういう事情等がある為です。しかしながら、被害者側からするとそのような事情は損害賠償事案に一切関係ありませんので、実際にかかった料金について堂々とご請求されればよいと考えます。ご参考までにどうぞ。


⑨ 上記は対「保険会社用」です。相手が全くの無保険なら…

・相手側にも過失ありとして保険会社が間に入っている場合には、上記の要件を満たさなければ、代車料はまず支払ってはもらえません。ただ、「あくまでも民事」ですので、双方の合意があれば「請求」は可能です。即ち相手が任意保険に加入していない場合などは、上記の制限はあてはまりません。

・「友人から車を借りたから1日3万円支払え」 法的な支払い義務の有無はさておいても、相手が飲めば通ります。 詳細は避けますが、相手が無保険車で過失100%の場合、代車料以外の請求も可能なケースが出てきますので、逆の立場になった事を考えて必ず任意保険に加入しておくことを強くお勧めいたします。

加害者に対してこちらから請求をかけるのには、事実上弁護士を入れる様になりますので、弁護士費用特約等は必須です。


・如何でしたでしょうか、一見当然に見えるレンタカー代の請求にも、意外と細かい一面がございます。それだけ裁判での争点になっていたという裏返しだと思いますが、ご参考までになれば幸いです。なお、上記項目はあくまでも個人的な意見のTIPSに過ぎません。個別具体的な法律判断には使用できませんし、相手方との交渉の参考文章などには一切使用できません。きちんと有資格者による法律相談等を受けて対応頂ければ頂ければと思います。何が起きても責任は一切もてませんので悪しからずご了承ください。

(参考:裁判例、学説にみる交通事故物的損害 「代車料」 第2集④/海道野守著/毎日保険新聞社/ 定価4,200円+税