■「事故に遭ったから車を修理しなければならない。その間の代車料を支払え」 …至極真っ当な申し出のように聞こえますが、これだけで法的に代車料の請求が認められるわけではありません。代車料を相手に請求するには、一定の要件を満たすことが必要になってまいります。具体的な ケースや過去の判例を基に、こまかに説明させていただきます。被害に遭った方は勿論、始めたばかりの保険代理店さんや車屋さん等、参考までに是非ご覧になって頂ければと思います。


① 代車が必要不可欠な場合

・自宅に車が2台ある等、代替の交通手段が存在する場合には、代車料を否認する判例が多数存在し、代車料の請求は認められません。但し、自宅に車が4台あったとしても被害車両以外の車は全て家族がそれぞれ通勤などに使用している…等、代替の交通手段といて必要不可欠である場合には、文句なしに代車料が認められます。 また勤務先が自宅より近隣の場合には、公共の交通機関が利用できない、又は著しく不便である事などを立証しないと「必要不可欠」とは認められません。毎日通勤に使用していた事等を主張・立証できれば代車請求の必要性を認めさせることは容易です。

ex)勤務先が被害者車両の通勤用に、専用駐車場を賃貸確保している

交通網の発達している都市部とは違い、地方では車が無いと通勤等生活が著しく不便になるケースが多いので、都市部と地方とでは代車料の認定に「逆格差」が生じ易くなります。

「原告は原告車両以外にも車両を保有している事実が認められ、右事実に照らすと、原告について代車を借りる必要は認められない。」【事件番号:平9(ワ)167号 名古屋地裁 判決:平成10.7.17】


② 実際に修理に出し、代車を使用した場合

・代車を借りても、実際に使用しなかった場合には代車料の請求は認められません。また、修理にも出していないのに代車料を請求しても当然代車料の請求は認められません。

 但し、代車を必ず使うであろうという客観的で「確実な見通し」があれば、実際に使用されなくてもレンタカー代の請求は認められます。


③ 代車料を支払った場合

・代車料を支払っていないのに代車料を請求しても認められません。本来は被害者がレンタカー会社に料金を支払い、それを基に加害者側に損害賠償請求をするのが本筋です。

 実際の実務で申しますと保険会社がレンタカー会社に直接支払っているのが現状です。相手が任意保険に加入の場合には、あまり気にしなくてもよい要件です。


④ 友人に車を借りたが、お礼を請求できる?

・レンタカーの貸出しには運輸局の免許が必要です。更に中古で購入した車両をレンタカーとして貸し出すには各都道府県公安委員会の古物商免許必要になります。従いまして、弊店の様な正式な「わ」ナンバー以外の代車については、保険会社から代車料の支払いはして貰えません

 慣習的な実務としては、修理工場等に対して修理期間中に代車を出した場合、「工場代車」という名目で、「わ」ナンバー以外の車でも「謝礼」という名目で支払いをしているのが現状です。勿論正式「わ」ナンバーのレンタカーではありませんので、実際に工場へ支払われる「謝礼額」は安価に抑えられています。


⑤ 同じ外国産高級車を借りたいが、そのまま請求できる?

・例えばBMWやベンツ、リンカーンやアルファロメオ等の外国産高級車 を運転していた方が交通事故に遭遇したとしましょう。代替レンタカーに同じ「外国産の車種」をレンタカーに使いたいと申し入れをしてきた場合、1日に3万 円も5万円もする代車料の請求は認められるでしょうか?答えはNoであります。国産高級車の代車料を上限に請求が可能です。  代車はあくまでも一時的に乗るものである為、必ずしも同じ車種でなければならない必要はどこにも認められない上、被害者側にも無意味に損害を拡大させない義務があります。従って、高級外車で事故を起こした場合であったとしても、そのまま同じ外車を高額な値段で借りても相手へ請求は認められません。左ハンドルに慣れているからという理由も通用しません(※1)

 実際、弊店のお客様の事故相手が難癖を付けてきて「商売の信用に関わる」など、上記例そのまま「ベンツの代車料」を請求してきた実例がありました(1円も払いませんでしたが)。 過去の判例でも「ベンツでなければ不動産取引上の信用を失うなどと言う事情は認めらず、代車が国産車であっても営業活動に与える支障は特段認められない」等の判例がありますので、高級外車を所有される「同じ高級車を!」…このような言いがかりで裁判をしても余裕で負けますので、おとなしく国産の高級車を借りて交通事故の交渉する方が賢明です。

※最近、ポルシェの代車料を2か月間修理もしないまま60万円も代車料の請求訴訟してきた例がありました。交渉材料にしたいが為に実際には棄却されるのは分かっていながらも高額な請求をしてくる弁護士がいるのが、上記のような誤解を生む一因になっているのではいかと思います。訴状を受けたお客さんは動揺していましたが、「ただのブラフなので落ち着くように」と説明し、こちらも弁護士を入れてきっちり応訴したため、相手は第1回の口頭弁論直前に訴訟を取り下げとなりました。結局は「相手が委縮して、交渉に応じてくれば儲けもの」という単なるブラフだったのですが、「物事を正確に知っている」という事は大変役に立ちます。

「本件自動車と同格の車両を利用しなければ不動産取引上の信用を失うといったような事情は認められないから、原告が代車としてベンツを使用する必要性があったとまで認める事は出来ず、代車としては高級国産車で足りるというべきであり…」【事件番号:平成5(ワ)第906号 京都地裁・判決日H5.10.27】 【※1)事件番号:平成14(ワ)3382 大阪地裁 判決日平成14.11.29】

 

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